聖武天皇御宸筆と言われる『大聖武と中聖武』が出品されてたから書きましたよ(2回目)
今回の記事、実は以前に書いていたのですが、3700字を超えたあたりで誤って下書きを削除してしまい物凄いショックを受けて立ち直れないまま放置しておりました…どうにか復元できないだろうかと調べたものの、あくまで下書き段階の世に出ていないデータの復元は難しいとのこと⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
仕方なくもう一度、書き直すしかないと思い机に向かっているところであります⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
今回新たに書き直すにあたり、前回と同じように書けと言われても無理なので構成も変更して書きました。それではどうぞよろしくお願いいたします。
御宸筆ってなに?
宸筆(しんぴつ)とは天子の直筆 (じきひつ) を言い、勅筆または宸翰 (しんかん) とも言われています。宸翰は天子の直筆の文書という感じでいいと思います。
宸筆とは ーコトバンク
今回のお話で言うと天皇直筆の発給文書のことではなく、あくまで天皇が書いたと思われる文字についてのお話なので、この場合は宸筆というくくりになると思われます。
ではその御宸筆というものに、我々現代人が実際に見る機会ってあるのか?って思いますよね。
歴史上の天皇の書は博物館図録などにいっぱい掲載されていますが、明治天皇や昭和天皇といった近代以降の我々に身近な天皇の御宸筆は?と考えるとどうですか?
現代人の身近な例としては勲章を授与される際にいただく勲記という賞状があります。
勲章のランクが上の位(大勲位とか勲一等とかのレベル)になると親授といって天皇御自ら下賜されるんですね。そして勲記にも天皇の署名と国璽が押されるんです(署名は勲三等以上)。
勲位による勲記の違いはの画像を見比べてみてください。
この画像は大正天皇と摂政宮裕仁親王(後の昭和天皇)のダブル署名。レアです( ◜ω◝ )
天皇より下に摂政宮の署名が置かれているところもミソですね( ◜ω◝ )
この部分は天皇陛下が実際に手書きされている訳ですから、御宸筆ということになります。
ですのでこの手の勲記はヤフオクでも高額で取引されています。
さらに授与される者が歴史的な有名人ならさらに価値がありますね。
ワタスは桂太郎の勲記が流れてきたのを見かけた事がありますが、落札価格はもう覚えておりません…⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
せっかくなので面倒くさがらず落札結果を調べてきました…
3,258,000円!!!!!!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
桂太郎さんの大勲位菊花章頸飾に対する勲記ですね。日本の最高峰の勲章です。
天皇陛下が首からぶら下げているアレです⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
の親授式の画像にも写っていますね( ◜ω◝ )
親授式ってこういうやつですね。春と秋にニュースになっていると思います。
こちらは勲八等白色桐葉章の勲記。国璽のみで天皇の署名はありません。
めちゃめちゃ脱線してますが、勲章にご興味ある方はの国立公文書館の勲章関係のページをおすすめします。時間を忘れます( ◜ω◝ )
さて、御宸筆とは何かという問題はこれでなんとなく解決したのではないでしょうか(脱線しすぎたので忘れちゃったよ!って方は最初に戻ってくださいね)。
それでは少しずつ今回のお題の詳細に入っていきましょう( ◜ω◝ )
大聖武(おおじょうむ)ってなに?
は古筆名葉集という本に記載されている聖武天皇の項です。
ここには大聖武については下記のように書かれています。
「大和切 大字 唐紙に胡粉地経 墨罫 墨字 大聖武と云う
紙の種類は白・浅黄・茶・薄紅などあり」
唐紙とは輸入された紙のことで、外国製の紙ってことですね。
胡粉地というのは紙の上に胡粉という貝殻から作られた白い顔料を塗っているものを言います。
墨罫、墨字というのは、紙に引かれている罫線と書かれている字は墨を使っているということを指します。
大聖武の一番の特徴はその使われている料紙で、これを荼毘紙と呼んでいます。
この荼毘紙については次項で解説します。
ふたつ目の特徴として、文字の大きさが挙げられます。
通常の写経は1行に17文字を配しますが、この大聖武は12文字という違いがあります。
この様なお経は大字経と呼ばれています。
文字数が少ない分、文字が大きく力強く重厚で威風を感じさせます。
鉛筆やボールペンの無い時代ですので筆で字を書くのですが、写経の場合、黒い墨を使う場合だけでなく、金泥や銀泥を使って字を書く場合があります。
こういうやつです。
これは藍を染めた紺紙に金泥(金粉をにかわで溶いた顔料)で書かれたお経(紺紙金泥経)です。
このようにバリエーションに富んだものがあるので、しっかり区別して記載しておかないと間違いの元になってしまいますね。
金色の字と黒い字のものではまったく別物になってしまいます。
つまり、大聖武とは白っぽい紙(荼毘紙)に墨色で書かれた大きな文字の写経切ということになりますね。
さすがにそんな適当な書き方あるかい!って怒られそうなので「昭和新修日本古筆名葉集」の大聖武の項から引用させていただきます。(注:太字はワタスによる)
(前略)…料紙は所謂荼毘紙で、骨灰を全面に漉き込んだものといはれてゐるが、実はさうでなくて香木の粉末を蟲除けに漉き込んだものと思われる。(略)…文字の大小によつて、それぞれ中聖武、小聖武といひ伝へてゐる荼毘紙経であるが、書風はまちまちであつて、用紙が所謂荼毘紙であれば、皆聖武と呼ぶ古筆家の慣例になつてゐる。
出典:昭和新修日本古筆名葉集
ここに記載の太字部分のように「用紙が所謂荼毘紙であれば、皆聖武と呼ぶ」という事が肝なんですね。ではなぜ文字が鑑定の項目から除外されているのか?
それはこれとは別に聖武天皇御宸筆の史料が残されているからです⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
つまりその御宸筆の文字と大聖武などの古写経切とはまったく違う人の筆跡だということが確認されているのです⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
ちなみにその聖武天皇のマジの御宸筆はこちらです
ついでなので大聖武と比べてみましょう。
こちらが聖武天皇御宸筆の『聖武天皇宸翰雑集(正倉院宝物)』でございます。
そしてこちらが大聖武ですね。
まったく別人の筆だろうなと皆さんも思ったはずです
ではなぜ別人だと分かっているのに訂正されずに放置しているんだ?とお思いのはず
そこらへんの込み入った話は聖武天皇の他にもたくさんありますので、もし需要があれば小話として別項にて書きたいと思います
今はとりあえず、『そうなんだ…』でスルーしておいてください
荼毘(だび)紙ってなに?
この大聖武(中聖武、小聖武も同様)には他の古写経切にはない紙(料紙)が使われています。
それを荼毘紙と言います。
大昔から現在に至るまで、この荼毘紙の解釈はどのようなものだったのか?
現代の科学を用いて分析した結果、古筆名葉集に記載されていた唐紙(外国製)という前提が覆されています。
少し長いですが、Wikipediaからその部分を引用させていただきます。(注:太字はワタスによる)
大聖武の料紙は、マユミの靱皮繊維を原料とした真弓紙に胡粉を塗布したものである。1紙の寸法は縦27.5cm、横58cmほど。おおよそ縦23.3cm、横2.6cmの墨罫を引く。
大聖武や中聖武・小聖武に使用された料紙には、黒または茶褐色の極小さな粒子が無数に見える。この粒子については、かつて釈迦または光明皇后の遺骨を粉末状にして漉き込んだものであるという伝承があった。荼毘紙という名称はここに由来する。後に、荼毘紙の顕微鏡観察から、この粒子は香木を細かに砕いたものではないかという説が唱えられ、防虫と荘厳を兼ねて香木を漉き込んだ料紙であるというのが定説になっていた。
しかし、近年の繊維分析や復元などを伴うより詳細な研究によって、荼毘紙はマユミの靱皮繊維を原料とした料紙であり、粒子はマユミの靱皮繊維に含まれる樹脂成分が凝集したもの、または粗い繊維であることが判明した。なお称賛浄土仏摂受経の修理報告ではこの粒子について「マユミの靭皮繊維に含まれる樹脂成分や粗い繊維と思われるもの」とし、髙橋裕次もその表現を踏襲している。また久米康夫は「マユミ原料の塵入り紙であり、微粒子はマユミの靱皮の塵であるという説もある」というが、宍倉佐敏は久米の書を引いた上で、「この異物は繊維に貼り付いて粘着性があるので、塵ではなく何らかの樹脂成分であろうと推察される」と樹脂成分説をとる。
この真弓紙(檀紙)という語は正倉院文書に散見されるものの、従来マユミを原料とする料紙が確認されず、また後世には檀紙という語は楮を原料とした紙を指していたために、その存在が疑われていた。しかし、荼毘紙がマユミを原料とした紙であることが判明し、真弓紙の存在が裏付けられた。
正倉院文書の真弓紙の記述は、天平感宝元年(749年)から天平宝字2年(758年)の9年間にしか存在せず、真弓紙はほぼこの期間にのみ漉かれたものと推定される。当時紙は貴重品であり、白紙のまま長期間保存することは考えにくいことから、大聖武の書写年代もおおよそこの頃だと思われる。また、かつて大聖武は和経か請来唐経かで議論があったが、料紙が和製真弓紙であることが判明し、和経で決着した。
出典:Wikipedia
引用した文章から荼毘紙の特徴を抜き出してみると大きく2点あり、それを太字にしてみましたが、
1.真弓紙に胡粉を塗布したものである。
2.黒または茶褐色の極小さな粒子が無数に見える。
この1と2が荼毘紙を見分ける重要な点であるということ。
前項の大聖武での説明にもあったように、見分ける最重要ポイントとは「荼毘紙 Yes or No!」ということなので、上記の荼毘紙の特徴である2点をしっかり確認していけば、それが大聖武もしくは中聖武、小聖武なのか否かが分かってくるのではないでしょうか?!
それでは、長くなりましたが、ヤフオクに出品されていた大聖武、中聖武、小聖武を見ていきたいと思います。すでにこの記事の書き直しには膨大な時間がかかっており、すでに最初に記事にしていたオークションは終了しております。その間に新たな大聖武、中聖武、小聖武が出てきておりました。今回はその辺りもまとめて見ていくことにしましょう。
出品されていたものを見てみよう
さて、それではこの記事を書いては消し、書いては消しを繰り返している間に色んな大聖武、中聖武、小聖武が出品されておりました。
前項までの内容を踏まえながらその写経切の真贋を確認していきましょう。
中々の数が出ておりましたので、その中でも高額で落札されているものをピックアップしました。
時間をかけずサラサラサラ〜っと行きますね
まず写経切の画像、次に落札金額の画像を順番に並べて行きます。
そしてワタスの一言コメントを添えながら見ていきますね( ◜ω◝ )
前項でも書いたとおり、見極めるポイントは下記の2点
1.真弓紙に胡粉を塗布したものである。
2.黒または茶褐色の極小さな粒子が無数に見える。
です。『荼毘紙 Yes or No!』であります!
それでは始めます!( ◜ω◝ )
大聖武!85万5000円!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
でも荼毘紙じゃない!アウトぉぉぉぉぉぉぉ!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
中聖武!24万5050円!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
荼毘紙じゃない!アウトぉぉぉぉぉぉぉぉ!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
中聖武!21万8000円!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
荼毘紙じゃない!アウトぉぉぉぉぉぉぉぉ!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
中聖武?でしょうか?14万5000円!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
商品タイトルに白麻紙!!出品者が荼毘紙否定してる!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
荼毘紙じゃない!アウトぉぉぉぉぉぉぉぉ!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
小聖武!9万3600円!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
出品者のコメント「非荼毘紙ですが、白麻紙の小聖武でしょう。浅学のため、詳細は不明です。」
荼毘紙じゃない!アウトぉぉぉぉぉぉぉぉ!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄൧̑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝
おわりに
なんだかんだと長々とお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。
やっと、この記事を書き上げることができ、自分も成仏できそうです( ◜ω◝ )
ミスって記事を消してしまった最初の下書きとはまったく内容も変わってしまいましたが、これはこれでよかったのかなと思うようにします。
今、大聖武についての論文を数本、国会図書館から取り寄せています。
それを読んだ後、また加筆修正するかもしれませんし、また別項にて新規に書くかもしれません( ◜ω◝ )
しかし世の中には自分のお給料を超えるくらいのお金をそのわずか15文字程度の紙切れにつぎこめる人がいっぱいいるんだなと感心しますね( ◜ω◝ )
また、それがことごとく贋物を掴んで去っていく…( ◜ω◝ )
ワタスがいつかそのような富裕層に登り詰めた暁には絶対、ヤフオクでは買うまいと誓ってこの項を締めたいと思います( ◜ω◝ )
本当にここまで読んでいただき誠にありがとうございました( ◜ω◝ )
今回は以上です。